日本では年間約522万トンの食品ロスが発生しています。なぜまだ食べられる食品がこんなに捨てられているのでしょうか。国立環境研究所の吉田綾先生は「みんなが『あたりまえ』だと考えている仕組みや習慣に一因がある」と話します。
日本では、まだ食べられる食品が年間約522万トンも捨てられています。国民1人あたりで換算すると、年間約41キログラムになります。身近な数字でたとえるなら、日本の小学6年生の平均体重と同程度。実感はなくても、
出典:国民1人あたりの年間食品ロス量/消費者庁「食品ロス削減関係参考資料」(令和4年12月1日版)、小学6年生の平均体重/文部科学省「学校保健統計調査」(令和2年度)
まだ食べられる食品が毎日ムダになっている
「食事」は、人が生きていくうえで欠かすことのできない営みです。豊かな食生活は、おなかも心も満たしてくれます。
一方で、私たちの食事は「食品ロス」の一因になっています。「食品ロス」とは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。似たような言葉に「食品廃棄物」がありますが、こちらは野菜の芯や魚の骨などの食べられない部分も含まれています。
日本では年間約2372万トンの食品廃棄物が発生しており、そのうちの約522万トンが食品ロスです。国民1人あたり、1日約113グラム。茶碗1杯ぱい分のご飯に近い重さです。100グラム程度とはいえ、積もり積もると年間約41キログラムに達します。
これほどの食品が捨てられている理由とは? 吉田先生は、世の中で「あたりまえ」だと思われている仕組みに問題があるといいます。
「私たち消費者は『コンビニやスーパーマーケットにはたくさんの食品が並んでいる』のはあたりまえだと思いがちです。店側もそれに応えようと商品を充実させますが、全て売り切れるとは限りません。消費期限が迫ったら結局、捨てられてしまいます。」
食品ロスは、家庭からも発生しています。原因は、皆さんの食習慣にも深く関わっています。「おなかがいっぱいだから、苦手な食べ物が入っているから。そんな理由で、食べ残していませんか? 家庭から出る『食べ残し』は年間約105万トン。外食産業で発生する分を加えると約160万トンになります。つまり、日本で生じる食品ロスの約3分の1が『食べ残し』によるものなのです。
家庭から出る食品ロスの内訳は、料理の食べ残しと使わないまま賞味期限を迎えた「直接廃棄」の食品が大部分を占しめています。また、飲食店から出る食品ロスの大半が食べ残し、というデータも。食品メーカーや食品を取り扱うお店などでは、売れ残ったり、返品されたりした食品などが捨てられています。
「あたりまえ」を見直して食品ロス削減と向き合おう
小中学生の皆さんでも、食品ロスを
「まずは、食べ物を残さないことを意識しましょう。外食するときも食べきれる量だけ注文して、それでも残った場合はお持ち帰りする手もあります。」
乾麺や缶詰などの長期保存できる食品は、家の冷蔵庫や戸棚の中で眠りがち。こうした保存食品の活用も大切なことです。
「宝探し感覚で賞味期限が迫った食品を探してみましょう。賞味期限が切れた食品でも慌てて捨てないでください。賞味期限が切れていても、食品の色やにおい、味などをチェックして異い常じょうがなければ、まだ食べられます。」
野菜が余ったときは、先生も実践している使いきりレシピの出番。その名も「余り野菜deみそ汁」です。
「みそ汁はどんな食材でも合わせやすく、きゅうりやトマトなどの生で食べるような野菜を使ってもおいしく仕上がります。余り野菜を入れてもOK。みそ汁の作り方は、学校の調理実習で習うことも多いので保護者の方かたとぜひ挑戦してみてください。」
自分で調理してみると、捨ててしまいがちな葉っぱや皮、切れ端はしなどの食材や余りやすい食材などの食品ロス予備軍も見えてきます。
こうした工夫を「あたりまえ」のこととして身に付けられれば、食べ物を捨てることもぐっと少なくなります。
実は地球温暖化も食品ロスが関係している
食品ロスは、環境負荷にもつながっています。食品の原材料調達から廃棄・リサイクルまでのプロセスの中で排出される温室効果ガスが地球温暖化の一因とされているのです。このごろは、環境負荷が気になる人のために「カーボンフットプリント」によって温室効果ガス排出量を表示する食品も出ています。
カーボンフットプリントって何?
「カーボンフットプリント」(Carbon Footprint of Products)とは、食品(製品)やサービスが「一生」のうちで排出する温室効果ガスを計算する仕組みのことです。ここでいう「一生」とは、原材料調達、生産、流通、使用・維持管理、廃棄・リサイクルの一連のプロセスを指しています。計算した排出量を表示する際は、分かりやすく二酸化炭素量に換算されます。消費者や企業が環境問題に関心をもってくれるように、2009年に国の取り組みとして始まりました。
食品は、さまざまな資源を投入して、消費者の手に渡ります。しかし、資源も無限にあるわけではありません。どんな食品もムダにはできないのです。私たちの未来のためにも、日々の食事を見直してみませんか?
今日から私たちができること
1 食べきれる量を注文する
家だけではなく、外で食事するときも自分がおいしく食べきれる量を注文し、残さないようにしましょう。「大盛」を注文して残すとお店の人の厚意もムダになります。「普通」でも多い場合は、お店の人に「少なめ」にできないか聞いてみるのもおすすめです。
2「余り野菜deみそ汁」を作る
野菜は
3 すぐに食べるつもりなら、賞味期限の近い食品から
購入する コンビニやスーパーマーケットで売っている食品は、商品棚の奥にあるものほど新鮮です。でも、すぐに食べるつもりなら、 賞味期限が近い手前の食品を取って、食品ロス削減に貢献してみては? 値引きされた賞味期限切れ間近の食品も、かしこく活用しましょう。取材、文・名嘉山直哉 イラスト・磯田裕子
監