おれは勉強がきらいだ。特に算数。
おれの机は、どこかのねじがゆるんでいるせいで、足の長さがふぞろいだ。そのため、がたついて安定しない。 おくに体重をかければ、ガッタンとかたむく。手前にひじをつけば、ゴットンとかたむく。
ガッタンゴットン。
ガッタンゴットン。
そうしているうちに、算数の授業が終わる。
休み時間に友達と教室を走り回った。「静かにしなさい!」と先生におこられる。聞こえないふりをすればいい。プロレスをやったり、プリントを丸めたものでキャッチボールをしたりする。
「今日も
「不思議なこともあるもんだな。毎週、決まった時間にゆれるなんて。」
夕飯の時間、ニュースを見ながら両親が話している。テレビには地震が起こったときの
「
「何でありえないの?」
ご飯とみそ
「地震というのは、いつどんなタイミングで起きるのか、
ちなみに地震が起きるのは、月曜と火曜の午前中、そして木曜と金曜の午後だという。
水曜日と休日は、なぜかゆれないらしい。
ふと、きみょうなことに気づいた。世間で地震が起きるのは、おれのクラスで算数の授業が行われている時間帯にぴたりと
おかしな
おれが退屈で机をゆらしている時間に、日本のどこかで地面がゆれているなんて。
二
おれの席は
「今日は水曜日ですが、特別に今から算数の勉強をしたいと思います。」
先生がそう言うと、みんなが「ええ!」と声を出す。
さっそくプリントが配られた。分数や図形の計算問題。おれの苦手なやつだ。ああ、いやだ、いやだ。めんどうくさいな。まずは各自、計算をする。その後、答え合わせをしながら、先生が黒板を使って説明し始めた。 退屈な時間だ。おれは
ガッタンゴットン。
ガッタンゴットン。
ガッタンゴットン。
そのときだった。
カタカタと、どこかで音がしたかと思うと、地面がゆれ始めたのである。世界が不安定な台の上に乗せられ、前後左右にスライドしているかのようだ。
「地震だ!」とだれかがさけぶ。
「みんな落ち着いて!」と先生が言った。
ありがたいことに、ゆれはすぐにおさまって、教室はいつも通りにもどる。
「水曜日なのに......。」
先生のつぶやきが聞こえた。
おれは自分の机を見る。まさかそんなわけないよな。 おれが算数の退屈さから机をゆらしたタイミングで、いつも地震が発生しているみたいだけど、偶然だよな。
今日は地震が起きるはずのない水曜日。
それなのに、机をゆらしたとたん、地面もゆれた。
いったい、どうなってるんだ?
おれは
ガッタンゴットン。
ガッタンゴットン。
おくへ、手前へ。
机の天板がかたむきを変え、
ガッタンゴットン。
ガッタンゴットン。
すると、ゴゴゴゴゴゴゴ、と低い音がして
「きゃああ!」
クラスメートたちの悲鳴が上がる。
おどろいたおれは机にしがみついてだきかかえるようにしながらゆれを止めた。とたんに地面の
テレビで専門家が今日の地震について話している。日本海側の
「今日の地震、
母さんがおれに聞く。
「う、うん、まあね......。」
「水曜日なのにゆれるなんてめずらしいよ。身構えてなかったから、けがをした人もいるみたい。」
三
そうじの時間になると、まずは教室の机を全て後方に
おれはそうじがきらいだから、いつもは友達とほうきをふり回して遊んでばかりいる。真面目にやっている女子にぶつかって
だけど今日のおれは遊ぶ気が起きない。自分の机を持ち上げ、できるだけゆらさないよう、そろそろと教室後方へ移動させる。自分の机のことが、気になって気になってしかたなかった。友達とはしゃいでいる場合じゃない。真面目な女子たちに交じっておれはそうじをした。机を元の位置にもどすときも、ほかの子にやらせるわけにはいかなかった。
おれの机のがたつきと、地震との間には、おそらく関係がある。どうしてなのか分からないけど連動している。おれは机を
おれが真面目にそうじしているのを見て、ほかの男子も遊ぶのをやめて手伝ってくれる。女子が意外そうな顔をしながらおれたちに
午後に算数の授業があった。退屈でしかたなかったけれど、いつもみたいに机をゆらすようなまねはしない。がたつかないように天板をおさえつけておれは分数の計算をする。先生がどこかうれしそうな表情をしていた。真剣な目のおれを見て、勉強を熱心に取り組んでいるものと
夕方のニュースで、今日は地震が発生していないことを知る。いつもなら日本のどこかで地面がゆれているはずの曜日だ。専門家は不思議がっていたけれど、おれはその理由を知っている。
四
日本は地震の多い国だ。
大きな地震を体験して、心に
もしもおれが、机をガッタンゴットンとやってしまったら、その子たちが悲しい思いをする。だからもう、おれは机をゆらすようなことはしないとちかう。
それなのに、ある日のことだ。教室で体の大きな男子がけんかを始めやがった。
ガツンと机がはじかれたようにバランスをくずす。
かたむいて、ゆかにたおれこむさまが、おれにはスローで見えた。
「あっぶなあい!」
おれはスライディングですべりこんで体全体で机を受け止める。ガツン、と頭をゆかで打ってしまったけど、机は無事だ。おれの体がしょうげきを
机を元にもどし、けんかしていた男子を
「おまえたち、周りに迷惑だろ!」
おれはおこっていた。大地震が起きる
かれらはしゅんとした顔でおとなしくなる。教室にいたほかの子たちが、なぜかおれに向かって
「最近、地震がないね。」
「あんなにゆれていたのに、どうしてなんだろう?」
夕飯の時間、父さんと母さんが不思議がっていた。大人たちは知らない。おれの机と地面が連動していることを。
机とは、ノートを広げて勉強する場所だ。
地面とは、この国を乗せている場所だ。
その二つがつながっているのは、どうしてなんだろう。何か深い意味があるのかもしれない。
「そういえば、
母さんがおれを見て言った。
三学期の最終日、先生から
だれも見ていないすきに、机を教室からそっと運び出す。おれの小学校には使用されてない教室がいくつかあって、ほこりのかぶった机やいすが積まれていた。そこに持っていき、地震を引き起こさない
これでもう、大丈夫。
しばらく地震は起きないだろう。
作家。福岡県出身。